研究概要 |
本研究の目的は、炎症反応の中心的な転写因子であるNF-κBに着目し、NF-κBの活性化が心不全の発症と進展に果たす役割を明らかにすることである。具体的には、以下の4つの心不全マウスモデルを作成し、野生型マウスとNF-κB(p50)ノックアウトマウスで比較検討した。初年度である今年度は、以下の知見が得られた。 1.アンジオテンシン持続注入モデル マイクロ浸透圧ポンプ(ALZET)を腹腔内に植込み、アンジオテンシンを野生型マウスに4週間持続投与したところ、体血圧の上昇と左室肥大を認めた。NF-κB(p50)ノックアウトマウスでは、体血圧の上昇はむしろ高度であったにもかかわらず、左室肥大が有意に抑制された。(Circulation 108:IV-214,2003) 2.大動脈結紮圧負荷モデル 胸部大動脈を結紮することで圧負荷モデルを作成し、心肥大、心機能、生存率について解析中である。 3.心筋梗塞モデル 左冠動脈を結紮し急性心筋梗塞を作成し、生存率、心機能、リモデリングについて解析中である。 4.TNF-α過剰発現モデル 心筋特異的TNF-α過剰発現マウスとNF-κB(p50)ノックアウトマウスを掛け合わせることでNF-κB(p50)遺伝子が欠損したTNF-α過剰発現マウスを作成したところ、心筋におけるサイトカインの発現や炎症細胞の浸潤は不変であったが、心筋肥大とMMP-9の活性化、アポトーシスが有意に抑制され、左室短縮率と生存率の有意な改善を認めた。(Circulation 108:IV-214,2003) 以上より、NF-κBは、炎症反応だけでなく、アンジオテンシンによる心筋肥大やTNF-αによる心筋障害においても重要な役割を果たしていることが明らかとなり、心不全治療の新たな標的分子となりうることが示唆された。
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