活性酸素は高血圧の病態に深く関与している。高血圧性血管病の標的臓器の中で脳は加齢や酸化ストレスに最も影響を受けやすい。しかし、高血圧における脳内活性酸素の役割は不明である。頭側延髄腹外側野(RVLM)は安静時交感神経活動を規定する心血管中枢である。本研究の目的は、脳卒中易発症性自然発症高血圧ラット(SHRSP)のRVLMにおいて活性酸素が増加しているか否か、また、その増加が血圧に影響を与えるかを明らかにすることであった。正常血圧ラット(WKY)及びSHRSPを実験に用いた。TBARSレベルは、全脳、RVLMにおいてWKYに比べて、SHRSPでは増加していた。電子スピン共鳴(ESR)法を用いて活性酸素定量及び種類の同定を行った。ESRシグナル強度の減衰速度はSHRSPにおいてWKYより大きかった。各種消去薬による実験結果からスーパーオキシド及びそれから生じるヒドロキシラジカル産生が増加していることが示唆された。RVLMへtempolを微量注入するとSHRSPでは用量依存性に降圧及び心拍数減少反応が生じたが、WKYでは変化しなかった。Western blot解析で、MnSOD発現はSHRSPのRVLMで減少しており、MnSOD遺伝子導入後10日で、WKYと同程度まで有意に増加した。MnSOD活性もSHRSPのRVLMへのMnSOD遺伝子導入後10日で有意に増加した。TBARSレベルはSHRSPのRVLMへのMnSOD遺伝子導入群で有意に低下した。遺伝子導入後10日における血圧・心拍数はMnSOD遺伝子導入SHRSP群で有意に低下したがWKYでは変化しなかった。尿中ノルエピネフリン排泄量はSHRSPでWKYに比べて有意に高く、MnSOD遺伝子導入後低下した。WKYでは変化は認められなかった。以上の成績は、RVLM内酸化ストレス増加はSHRSPの高血圧における中枢性機序に関与していることを示唆する。また、RVLMでiNoS遺伝子を過剰発現させると昇圧反応が生じ、活性酸素産生増加を介した交感神経活動亢進がその機序として関与していることを明らかにした。
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