心筋細胞の発現と分化誘導過程の研究は特異的転写因子の同定と収縮蛋白質の検索が主導となって進められてきた。本研究では心筋に特異的なイオンチャネルやイオン輸送体と収縮蛋白の発現誘導過程を通して心筋分化の特徴、すなわち興奮性の獲得と収縮能の発現という重要な2つの因子を個々に評価している。特に発現誘導イオンチャネルの機能的発現時相とそのキネティクス解析を目指して以下の手順で実験を行った。 1.胎児性癌細胞由来細胞P19CL6の心筋分化誘導:胎児性癌由来細胞のSub LineであるP19CL6細胞をdimethyl sulfoxide処理すると10日で心筋細胞に分化することを確認した。分化誘導10日目に最大拡張期電位-62mVの自動能を有する再生心筋細胞が得られた。 2.分化誘導細胞の細胞内電位測定:P19CL6細胞の分化刺激から連日パッチクランプ法を用いて膜電流を記録し、更に同イオンチャネルの単一チャネル記録を行った。その結果、I_<Ca.L>、I_<Ca.T>、I_h等のペースメーカ電流チャネルが高密度に発現することが確認された。 3.分化心筋細胞のラット心への細胞移植:P19CL6細胞が心筋細胞に特徴的な形質に分化するとき、その興奮収縮連関の成立によって収縮・弛緩機能をもった筋細胞が完成される。この再生心筋細胞をラット異所移植心に細胞移植し、同時にテレメトリ送信機を縫着する事で自動能を有する細胞の細胞移植によってレシピエント心臓の拍動が調節されることを確認した。すなわち、移植再生心筋細胞は元来の心筋細胞とギャップ結合を形成し、興奮性の伝播の為に必要な電荷量の変化が観察された。更に、異所移植心の自動能と異なる拍動ペースを有する移植細胞ペースメーカ(副収縮様期外収縮)の出現が心電図で確認された。一方、移植細胞(P19CL6)とレシピエント心との電気的結合がいかなるコネキシンによって形成されるかは今後検討されるべき課題として残されている。
|