研究概要 |
平成15年度は臨床応用が可能な心臓への遺伝子投与法の確立に焦点を絞り研究を行った。心筋への遺伝子投与法としてはアデノウイルスベクターが最も有効であるが心筋毒性、副作用が懸念される。そこでCAGプロモータープラスミドによる遺伝子治療臨床応用を考慮し、各種CAGプロモータープラスミドを作製し心臓での遺伝子発現を検討した。その結果、安全性を考慮しSV40ウイルス由来配列を除去したpCA1プラスミドが従来の心血管系遺伝子治療に汎用されているCMVプロモータープラスミドに比べラット心において、5-10倍遺伝子発現が高いことを明らかにした(Huang JH, Ito Y, et al.J Gene Med)。さらに臨床応用を考慮し、センダイウイルスベクターの心血管系遺伝子治療応用の可能性を検討した。その結果、in vitro, in vivoどちらにおいても心筋細胞でのセンダイウイルスベクターによる高い外来遺伝子発現が確認された。下肢虚血モデルを作製し、血管新生因子のひとつであるVEGFおよびangiopietin-1(Ang1)による遺伝子治療を試みた。その結果、アデノウイルスによるVEGF治療はむしろ虚血を悪化させたのに対しAng1遺伝子治療では、治療早期の虚血改善をもたらすことが明らかとなった。Ang1による新生血管誘導のみならずAng1の抗炎症作用が、その機序として考えられた。またAng1遺伝子による心筋梗塞(AMI)モデルに対する遺伝子治療がアデノウイルスベクターでのAng1遺伝子導入がAMI死亡率を低下させ、心筋梗塞巣を縮小し、心機能を改善することを確認したが(Takahashi K, Ito Y, et al.:Mol Ther)、VEGF遺伝子発現アデノウイルスベクターによるAMI治療効果を検討したところ、従来の報告と異なり胸水貯留や心嚢液貯留など重篤な副作用が出現することが確認され、Ang1遺伝子治療がAMIに対しより安全で有効であることが確認された。さらに臨床応用をめざしAng1発現プラスミドおよびAng1発現センダイウイルスベクターによるAMI治療効果を検討したところ極めて良好な結果が得られた。骨髄間葉系幹細胞(MSC)による虚血治療効果を検討したところ、治療後2週間と比較的遅れて治療効果が発現されたのに対し、Ang1遺伝子により修飾したMSCが治療早期(治療3日後)にその虚血改善効果を発揮しうることを明らかにした。
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