心筋細胞は胎児期および新生児期を除き、神経細胞と同様に細胞分裂するこがでず自己再生が不可能であると考えられており、心筋細胞における細胞周期、特に病的心である肥大心における細胞周期については、これまで十分に検討されてはいない。我々のこれまでのDNAチップを用いた研究では、心臓手術時に得られたヒト圧負荷心筋においてコントロール群に比べp21(cyclin-dependent kinase inhibitor 1A)の発現亢進がみられた。今年度の本研究では、p21遺伝子をα-myosin heavy chain (MHC)のプロモーター下に心臓特異的に発現させたトランスジェニックマウスを作成した。F1世代のマウスの尻尾より抽出したゲノムDNAの解析の結果、外来性α-MHC-p21遺伝子の伝達を確認できたマウスは5系統存在した。これら5系統におけるマウスの心筋組織を可溶化した。可溶分画より抗p21抗体を用いて免疫沈降し、SDS-PAGEに展開したのち、抗p21抗体にてウェスタン解析を行った。この結果、2系統で心筋組織におけるp21蛋白の過剰発現を認めることができた。さらに腹部大動脈に人為的に狭窄を加え、圧負荷に対する心肥大反応を検討した。リッターメイトではshamに比してbandingによる大動脈狭窄を加え16週後の慢性的圧負荷を加えたもので、心筋の壁厚は増大し心肥大が認められた。これに対してp21トランスジェニックマウスでは、shamでリッターメイトに比して既に心肥大傾向にあり、bandingによる慢性的な圧負荷を加えるとむしろ心筋の壁厚は菲薄化し左室内腔の拡大を伴う拡張型心筋症様の変化がみられた。本検討から、慢性圧負荷に対して代償できなくなった病態、すなわち非代償性心不全の病態にp21が関与している可能性が示唆された。
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