心筋細胞における細胞周期、特に肥大心における細胞周期については、これまで十分に検討されてはいない。今年度の本研究では、α-myosin heavy chain (α-MHC)のプロモーターにより心筋特異的にp21を発現させるトランスジェニックマウス(Tg)を作成、具体的には、α-MHCのプロモーター領域を含んだプラスミドにマウスp21 cDNAをサブクローニングし、C57BL/6N CrjとDBA/2N Crjとの交配で得られた♀(BDF1)にC57BL/6N Crj♂を交配して得られた受精卵に注入してファウンダーマウスを得た。心筋組織におけるp21蛋白の過剰発現を認めることができたTgの2系統を用いて、腹部大動脈に狭窄を加えた圧負荷に対する心肥大反応の検討では、リッターメイトではshamに比してbandingによる大動脈狭窄を加え16週後の慢性的圧負荷を加えたもので、心筋の壁厚は増大し心肥大が認められた。これに対してp21Tgでは、shamでリッターメイトに比して既に心肥大傾向にあり、bandingによる慢性的な圧負荷を加えるとむしろ心筋の壁厚は菲薄化し左室内腔の拡大を伴う拡張型心筋症様の変化がみられた。real-time PCR法にて検討した心筋組織中のGAPDHに対するBNPmRNA発現量は、wild typeのshamに比しbandingを加えたものでは3.2倍増加し、Tgでは3.3倍の発現亢進を認めた。心筋組織中のGAPDHに対するp21 mRNAの発現量は、Tgで著明な亢進を確認できた。本検討から、慢性圧負荷に対して代償できなくなった病態、すなわち拡張型心筋症様の非代償性心不全の病態にp21が関与している可能性が、またTgのshamでリッターメイトに比して心肥大傾向となったことは胎生期のp21の過剰発現による影響を反映している可能性が示唆された。
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