動脈圧反射は循環の恒常性を維持する重要な負帰還調節機構である。これまでに正常状態における動脈圧反射の静特性及び動特性は詳しく調べられてきたが、急性心筋梗塞等に伴う動脈圧反射の異常は定量化されていない。本研究の目的は最適治療に資するために、急性心筋梗塞が循環調節に及ぼす影響を定量的に解析し、過渡応答を含めて循環動態の異常を正確に記述できる循環系モデルを作成することである。これによって急性心筋梗塞における循環調節の異常を、循環系モデルのパラメータの変化として客観的に評価できるようになる。このような評価は急性心筋梗塞のリスクの層別化に役立つと考えられる。また、急性心筋梗塞の病態に特化した循環系モデルを用いて、投薬に対する生体応答を予測すれば、投薬量を必要最小限に抑えることができ、最適治療の開発に繋がると考えられる。本年度は、麻酔下のウサギを用いて心臓交感神経活動を記録しながら、左冠動脈回旋枝を閉塞し急性心筋梗塞を作成したときに、動脈圧反射の動特性がどのように変化するかを伝達関数法で定量化した。その結果、急性心筋梗塞によって平均動脈圧が約100mmHgから50mmHgに低下したが、動脈圧反射の中枢弓及び末梢弓の動特性はあまり変化しなかった。動脈圧反射の静特性については、急性心筋梗塞作成後約10分で致死性不整脈を起こして死亡することから、平衡線図は得られなかった。以上の結果から、麻酔ウサギにおいては冠動脈閉塞による心筋梗塞を起こしても、梗塞後早期には動脈圧反射の動特性はあまり変化せず、正常状態で得られた中枢弓と末梢弓のモデルを適用できることが判明した。この原因として麻酔ウサギでは迷走神経等を介する心臓反射が抑制されており、中枢の動特性にあまり影響を及ぼさないことが考えられる。また、末梢弓の動特性を決定する上で心臓要素よりも血管要素が主な役割を果たしている可能性がある。
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