本研究の目的は、急性心筋梗塞の最適治療に資するために、急性心筋梗塞が循環調節に及ぼす影響を定量的に解析し、急性心筋梗塞における循環動態を過渡応答を含めて正確に反映できる循環系モデルを作成することである。これによって急性心筋梗塞における循環調節の異常を、循環系モデルのパラメータの変化として客観的に評価できるようになる。このような評価は急性心筋梗塞のリスクの層別化に役立つと考えられる。また、急性心筋梗塞の病態に特化した循環系モデルを用いて、循環系及び自律神経系の動態を含めて投薬に対する生体応答を予測すれば、投薬量を必要最小限に留めることができ、投薬の無駄を省く等の最適治療の開発に繋がると考えられる。本研究では、動脈圧反射の動特性と静特性をそれぞれ伝達関数と平衡線図を用いて定量化に解析した。麻酔ウサギを用いた実験の結果、フェニルビグアニド投与で迷走神経を介する病的な心臓反射を惹起すると、圧入力に対する交感神経活動の変化から計算した動脈圧反射ゲインが約1/2に低下することが判明した。このような血圧調節機能の変化を考慮した上で、血圧を維持する自動投薬アルゴリズムの検討を行った。係数固定型の古典的比例積分微分型(PID)制御では、生体応答の違いによって血圧制御が不安定になったが、ニューラルネットを用いた逐次学習型の制御では生体応答の大きさが変化しても安定した制御が可能であった。左冠動脈閉塞による急性心筋梗塞が動脈圧反射に与える影響についても検討を行ったが、心臓ポンプ機能の低下に伴う平均血圧の低下は見られたものの、動脈圧反射の動特性に大きな変化は見られなかった。麻酔ウサギにおいては迷走神経活動が顕著に抑制されるので、薬物投与で惹起されるような迷走神経反射が観察できなかった可能性がある。
|