研究概要 |
肺線維症の病態に関して筋線維芽細胞の役割が注目されている.プロスタグランジン(PG)12は血小板の活性化を抑制し,平滑筋を弛緩させ,血管平滑筋の増殖を抑制する脂質信号伝達物質であり,細胞膜のリン脂質からPGH2を経てPGI2合成酵素(PGIS)により作られる.「肺線維症動物モデルでの肺局所へのPGIS遺伝子導入は肺線維症を軽減する」との仮説を検証するため,まず本研究者が作成したPGISを組み込んだプラスミドpCI-PGISを培養肺癌細胞株に導入し,PGI2の発現上昇をその代謝産物のEIAで確認した.さらにブレオマイシン経気管投与による肺線維症モデルマウス実験でMAA-プラスミドの静脈注射と,HVJリポソーム-プラスミドの経気管投与を比較して投与経路の検討を行い,後者が肺組織象への影響でより良好な再現性を示したため,8〜10週齢C57BL/6マウスにpCI-PGIS 20μgをHVJリポソームを用いて経気管的に導入し,翌日ブレオマイシン60μgを気管内投与し,PGIS遺伝子導入が肺線維症形成に与える影響を検討した.PGIS遺伝子導入動物での体重は対照に比し増加し(19.5±0.7 vs 12.4±0.8g,投与後21日),肺の含有するヒドロキシプロリン量は低下し(37.6±7.2 vs 50.3±2.9μmol,投与後14日目の摘出肺1gあたり),肺組織への細胞浸潤の程度が少なかった.また血小板や平滑筋に対して反対の生理活性をもつTXA2合成酵素遺伝子の導入実験を同様に行って,PGIS遺伝子導入実験と対照的な結果が得られた.これらの結果は,PGIS遺伝子導入が肺線維症を軽減することを示唆する.またGFPマウス骨髄を移植したキメラマウスの作成方法を改善し,2回照射により,90%以上のキメラ率を得た.このマウスでPGIS遺伝子導入の影響の機序を次年度検討の予定である.
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