研究概要 |
平成16年度は高齢者遅延した嚥下反射が温度依存性に改善することを世界で初めて示した。咽頭内の食物が体温付近で一番嚥下反射が遅延し、食物がその温度から離れれば離れるほど嚥下反射の反射時間は早くなるのである(J Am Geritr Soc 52(12):2143,2004)。このことより、43℃以上で活性化されるTRPV1(VR1)、52℃以上で活性化されるTRPV2(VRL-1)、25℃以下で活性化されるTRPM8(CMR1)、17℃以下で活性化されるTRPA1(ANKTM1)が関与し、それらを活性化することが嚥下反射の改善につながることが示唆された。このことは非常に示唆に富む発見である。通常介護食は介護者の都合上、つくりおきが多い。そうなると介護食は口にするときは室温になり、口に入れて咽頭に達するときは体温と同じ温度になってしまい、食物は非常に誤嚥しやすいということになる。そこでこの研究により介護食は常に作りたてがいいことを提示できたのである。さらに、TRPV1は侵害刺激でも活性化されることより、口腔ケアによる歯茎の慢性的な侵害刺激が咳反射を改善するかどうか調べた。一ヶ月間の積極的な口腔ケアを施した群としなかったコントロール群の一ヶ月後のクエン酸法による咳反射の感受性を測定したところ、ベースラインでは有意差がなかったのに、一ヵ月後は口腔ケア群で有意にベースラインと比べてもまた、コントロール群と比べても改善していた。このことは、口腔ケアは口腔内細菌を除去するのみならず、咳反射、嚥下反射を改善することにより、誤嚥性肺炎を予防することが示された(Chest 126:1066,2004)。さらに、テオフィリン投与群の高齢者の嚥下反射、プラセボ投与群と比べて有意に一ヵ月後に嚥下反射が改善することを発見した(J Am Geritr Soc 52:1787,2004)。
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