研究概要 |
[目的と方法]英国のNinewells hospitalHenderson CJらの研究室においてgene-targeting法により作成されたGSTP1/P2欠損マウス(Proc Natl Acad Sci U S A. 1998;95:5275-80)を日本に移入し雌のマウス各100匹について、16週間の慢性喫煙負荷をおこなった。喫煙負荷は、pump-smoke machine(Humburg II machine)を用いて市販タバコ1日40本を週6日16週継続しておこなった。対照群は、空気吸入を同様の時間おこなった。16週後、16週の時点では、死亡例はなかった。そこで、肺の圧量曲線による肺機能測定と組織計測、肺洗浄液による生化学的解析を行った。肺圧量曲線は、100%酸素で10分間人工換気を行ったのち、insituで胸郭を十分切除した状態でおこなった。シリンジポンプを用い、まず0.1ml空気を注入し気道内圧が一定になるのをまって、再び0.1mlづつ空気を注入し気道内圧と大気圧との差(transpulmonary pressure, Ptp)を測定した。このようにして得られた空気注入圧量をColebatch式(J Appl Physiol 1979;47:683-691)に当てはめ、肺の進展度を示す指数kを算出した。組織計測は、25cmH_2O定圧灌流固定した肺組織を切り出して切片を作成し、平均肺胞間距離(MLI)、破壊係数(DI)について行った。気管支肺胞洗浄は、HBSS液にて1mlで2回繰りかえした。Elastase activity, glutathione content, oxidized glutahione(GSSG),を測定した。また、BAL液中の遊離細胞10^5個に対する活性酸素産生量を測定した。 [結果]GSTP1/P2 null mouseでは、平均肺胞間距離(MLI)は、喫煙群で空気吸入群に比べ高値であったが、GSTP1/P2 (+/+) mouseでは喫煙による有意の変化はなかった。生化学的には、GSTP1/P2 null mouseもGSTP1/P2 (+/+) mouseも喫煙後、肺内総細胞数、白血球数の増加、オキシダント産生の増加、グルタチオン酸化(GSSG/GSH)の増加が見られた。 [結論]慢性喫煙によりGSTP1/P2遺伝子欠損mouseは、気腔の拡大と肺弾性収縮力の低下を生ずる。これらの所見は、GSTP1遺伝子が生体内において肺気腫を含む喫煙肺障害の発症を防ぐ上で重要な役割を果たしている事が示唆した。
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