モルモット気管平滑筋の切片をfura-2で処理し、等尺性張力と細胞内Ca^<2+>濃度(F_<340>/F_<380>)を同時記録し、脂質代謝産物であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)の及ぼす効果について検討した。S1P(0.01-10μM)を投与すると、濃度依存性に張力が発生し、F_<340>/F_<380>の値が上昇した。このS1Pによる収縮は、電位依存性Ca^<2+>チャネル阻害薬では抑制されなかったが、非選択的Ca^<2+>チャネル阻害薬により張力およびF_<340>/F_<380>はともに濃度依存性に抑制された。一方、低分子量G蛋白Rhoの標的酵素であるRho-kinaseの選択的阻害薬(Y-27632)を投与すると、S1Pの収縮は濃度依存性に抑制されたが、この場合F_<340>/F_<380>の低下はともなわなかった。 S1Pを曝露した後の自律神経作用薬の効果発現に及ぼす影響について検討した。S1P (0.01-1μM)を15分間曝露した後は、メサコリン(MCh、ムスカリン受容体刺激薬)に対する反応性には変化が生じなかったが、3-10μMS1Pに曝露した後はMChによる収縮反応が著明に亢進した。しかしこの時、F_<340>/F_<380>の上昇は起こらなかった。一方、MCh収縮に影響を及ぼさない1μM以下の濃度のS1Pを曝露した後は、イソプロテレノール(ISO、βアドレナリン受容体刺激薬)による弛緩効果が濃度依存性に減弱した。この効果においてもF_<340>/F_<380>の低下は起こらなかった。 培養されたヒト気管支平滑筋細胞を用いてS1PによるRhoの活性化について検討した。ロテキンを用いたpull-down法でGTPと結合し活性化されたRhoを測定すると、S1Pの投与後に著明に増加した。さらに、S1PによりRho-klnaseの標的であるミオシン脱リン酸化酵素が著明にリン酸化されることがウエスタンブロット法で証明された。 以上の結果か5、S1Pは脂質メディエーターとして気管支喘息の病態に特徴的な気道過敏性(ムスカリン受容体の反応性の亢進)、β遮断(βアドレナリン受容体の感受性の低下)に重要な役割を果たしている。その機序としてRho/Rho-kinase系を介したCa^<2+>感受性が深く関与している。
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