(目的) STAT3は当初IL-6の作用を細胞内に伝達する分子として同定されたが、近年細胞に対して保護作用を有することが報告されている。しかしながら肺胞上皮細胞に対してSTAT3が細胞保護作用を有するかどうかは明らかでない。そこで本研究ではSTAT3が肺胞上皮細胞傷害とそれに伴う線維化に関与するかどうか明確にするために検討をおこなった。 (結果) 1.過酸化水素負荷による肺上皮細胞由来A549細胞に対する細胞障害において、IL-6が濃度依存的に保護作用を有することを見出した。さらにその作用はSTAT3の活性化を介することが判明した。 2.肺上皮細胞にのみ特異的にSTAT3を欠損するマウス(肺上皮特異的STAT3欠損マウス)に対して高酸素負荷をかけると、正常マウスに比較して肺傷害が顕著となり生存率が低下することを明らかにした。組織学的に肺上皮特異的STAT3欠損マウスでは上皮細胞の脱落壊死が著明であることが判明した。 3.肺上皮特異的STAT3欠損マウスを用いて、ブレオマイシン肺線維症モデルを作製したところ、正常マウスに比較して著明な肺の線維化が誘導され、生存率の低下を認めた。そのメカニズムとして肺上皮細胞のアポトーシスが深く関与していることを明らかにした。 (結論) 以上の結果よりSTAT3は肺胞上皮細胞においても各種ストレスに対して細胞保護作用を有することが判明した。このことは肺上皮細胞におけるSTAT3を活性化させることが肺線維症をはじめとする様々な肺傷害の治療法となりうる可能性を示唆した。
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