研究概要 |
低分子量GTP結合蛋白質Rhoは種々の細胞内シグナルの下流で細胞骨格、遺伝子発現、細胞分裂など広範な細胞機能を制御し、これらを通して細胞の癌化、転移に深く関与している。細胞の癌化、転移においてはRho自体の発現が亢進すること以上にRhoの活性化亢進が重要であると考えられる。従ってRhoの活性化因子であるGDP/GTP交換反応促進因子guanine nucleotide exchange factor(RhoGEF)の発現、とそれによるRho活性化状態の解析は癌の発生、転移機序の解明ならびに新しい分子標的療法の開発に結びつくことが期待される。私は平成15年度研究で肺癌細胞株におけるRhoGEFの発現状態とRhoの活性化状態を検討し、RhoGEF発現量は各種肺癌細胞株では由来組織に関わらずLARGがもっとも強く、次にp115-RhoGEFで、PDZ-RhoGEFは弱いこと、ならびにRhoの活性化は小細胞肺癌細胞で特に高いことを明らかにした。平成16年度研究では小細胞癌で見られるRhoの活性化亢進について検討した。小細胞癌のautocrine的な成長因子としてGRPが知られていることから小細胞肺癌細胞株H69を用いて、GRP-G蛋白供役受容体-RhoGEF-Rhoの経路の検証を行い、本細胞においてはGRP-Gq,G12/13-LARG-Rhoの活性化経路があることを明らかにした。平成17年度研究ではGqを特異的に阻害する低分子化合物(アステラス製薬より供与)を用いて、この経路を分析した。その結果からGqを阻害してもRho活性化にはほとんど影響がないこと明らかにした(投稿準備中)。これら研究から、小細胞癌細胞株においてはGRP-G12/13-LARG-Rhoが主なRho活性化経路であり、本経路の阻害が小細胞癌治療の新しい分子標的になりうることが明らかになった。
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