研究概要 |
慢性間質性肺炎のなかで難治性疾患として位置づけられている特発性肺線維症は,しばしば炎症が急性増悪し致死的経過をとる。急性増悪した際の病理所見はびまん性肺胞障害であり,分子病態学的にはTNF-α等のproinflammatory cytokine活性亢進に基づく生体反応である。臨床的には,種々の起炎病原体感染を契機に急性増悪が生じる。したがって,TNF-αによって惹起される炎症拡大を抑制できるならば,本疾患による致死率を低下させ得る。炎症細胞でのTNF-αの発現は,細胞表面に発現したToll-like receptor(TLR)に菌体成分が結合し,そのシグナルが細胞内へ伝達されることによって亢進される。一方,肺サーファクタント蛋白質であるSP-Aには,抗炎症作用があることが知られている。今回,SP-Aがブドウ球菌由来peptidoglican(PGN)による細胞応答を変調させうるかについて検討した。PGNは肺胞マクロファージ上のTLR2と結合し,TNF-α産生を亢進させた。SP-AはTLR2と直接結合し,このreceptorをPGNと競合し奪い合うかたちでTNF-α産生亢進を相殺した。したがって,SP-Aには,TLRを介する炎症の拡大を抑制する作用があることが示唆された。今回の検討結果は,SP-Aが慢性間質性肺炎の急性増悪予防薬になりうることを示している。リコンビナントSP-Aを開発し臨床応用する意義が見いだされた。
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