研究概要 |
我々は、肺血管内皮細胞の恒常性が、血管新生促進因子(VEGF, HGF, bFGF等)と抑制因子(Endostatin等)のバランスにて規定されていることを明らかにした。従って、両因子の不均衡が肺血管内皮細胞アポトーシスを誘導すると想定された。そこで、肺摘出標本・肺生検標本を用いて、肺血管内皮細胞アポトーシスの程度と肺の気腫化の程度、及び、血管新生促進因子・抑制因子の蛋白量・mRNA量の定量化を試みたところ、両因子の不均衡と肺血管内皮細胞・肺胞上皮細胞アポトーシスとの直接的な関連性が明らかとなった。さらに、肺の生理学的指標(呼吸機能・酸素濃度等)と肺血管内皮細胞アポトーシスの程度との関連性についても明らかにした。次に、誘発喀痰中の血管新生促進因子・抑制因子の蛋白量を測定し、このような非侵襲的方法により、肺血管内皮細胞アポトーシスの程度を予測することが可能であることを明らかにした。第2に、従来の症候学的・解剖学的な分類法であるCOPDのサブクラスとしての慢性気管支炎・肺気腫、及び、その混合型の各々に対して、肺血管内皮細胞アポトーシスの関与を明らかにした。即ち、COPDのサブクラスとしての慢性気管支炎と肺気腫は、その病理環学的構造を全く異にすることが最近のGlobal initiative for chronic obstructive pulmonary disease(GOLD)のpathologyの項にも明示されており、このような差異を肺血管内皮細胞アポトーシスを規定する血管新生促進因子・抑制因子の不均衡から実証したのである。我々は、さらに、気管支喘息気道のリモデリングの進展と維持に、血管新生促進因子の過剰な発現が関与していることも明らかにした。従って、慢性気管支炎の気道のリモデリングの進展と維持においても、血管新生促進因子の強力な発現が関与している可能性が想定された。同時に、COPD患者誘発喀痰中の炎症細胞比率・各種サイトカイン量・窒素酸化物濃度・酸化ストレスに対する抗酸化能等も定量し、COPDのサブクラスの病態生理を細胞生化学的に再構築し、オーダーメード医療への展開の理論的根拠を獲得したのである。
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