現在、臨床の場で汎用されているテオフィリン製剤・抗コリン剤・吸入ステロイド剤の肺血管内皮細胞アポトーシスと肺の気腫化に及ぼす影響について検討し、これらの薬剤を用いたCOPD患者の肺機能における経年変化の改善を目的とした臨床試験に着手した。さらに、肺の気腫化の程度を増悪させる因子の解明とそのメカニズムを明らかにした。即ち、エンドトキシン・窒素酸化物・タバコ暴露の際の肺血管内皮細胞アポトーシスの進展程度と血管新生促進因子・抑制因子の動態について検討したのである。第2に、肺血管内皮細胞アポトーシスから、肺胞上皮細胞アポトーシスと引き続く肺胞壁の破壊を誘導するプロセスを明らかにした。つまり、我々は、肺血管内皮細胞アポトーシスによる肺微小循環の破綻が、肺胞壁での抗酸化物質の減少を引き起こし、酸化ストレスへの感受性の増大をもたらすという知見を初めて明らかにしたのである。さらに、我々は気道における抗酸化能を直接定量化する方法を考案することに成功し、この方法を用いて、COPD患者の肺胞壁での酸化ストレスへの感受性増大の事実を明らかにした。次いで抗酸化物質の経気道的投与が、COPD患者の肺の気腫化の程度の増悪を予防できるかどうかについても検討を開始した。第3に、実際のCOPD患者の誘発喀痰中の血管新生促進因子・抑制因子の蛋白量を測定し、このような非侵襲的方法を用いて、肺血管内皮細胞アポトーシスの程度を予知することにより、COPDのサブクラス毎に、その治療法を決定することに成功した。このように、従来の治療戦略では、治療が困難であるとされるCOPD患者に対して、肺局所の血管新生促進因子・抑制因子の発現量を自由に調節することにより、治療が可能となりうるという可能性を示した。
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