研究課題/領域番号 |
15590822
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
東本 有司 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (70316115)
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研究分担者 |
石口 正 和歌山県立医科大学, 医学部, 助手 (70285401)
山縣 優子 和歌山県立医科大学, 医学部, 助手 (90347592)
伊藤 秀一 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (80137273)
慶長 直人 国立国際医療センター, 呼吸器疾患研究部, 部長 (80332386)
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キーワード | アデノウイルスE1A / SLPI / elafin / 肺気腫 / 肺胞上皮細胞 / 気管上皮細胞 / 成因 / 蛋白分解酵素阻害物質 |
研究概要 |
アデノウイルスの潜伏感染は肺気腫の成因の一つとして最近注目されている。そこで、アデノウイルスE1A遺伝子が炎症を増強して、肺胞構造を破壊して、COPDの原因になりうるのかを検討するために、アデノウイルスE1A遺伝子がヒト肺胞上皮細胞株(A549)及び、初代培養ヒト気管上皮(HBE)細胞の蛋白分解酵素阻害物質の産生に及ぼす影響を検討した。Secretory Leukoprotease Inhibitor (SLPI)及び、Elafin産生に及ぼす影響につて検討した。 A549細胞とHBE細胞のSLP産生とElafinI産生をELISA法で測定した。アデノウイルスE1A遺伝子の作用を検討するため、A549細胞とHBE細胞にE1A遺伝子を導入した細胞とをE1A陽性細胞として用いた。また、E1A遺伝子を含まないプラスミドを導入した細胞、及び無処置の細胞をコントロールの細胞として実験に用いた。それぞれの細胞を刺激物質の入った培養液で24時間培養した後、培養上清を採取し、SLPIの濃度を測定した。また、A549細胞のSLPI mRNA発現をノーザンブロッティング法で測定した。また、SLPIのプロモーター活性をルシフェラーゼアッセイにて測定した。 A549細胞において、IL-1刺激でSLPIの産生は誘導された。無刺激で産生されるSLPI及び、ElafinはA549細胞と気管上皮細胞ともにE1A遺伝子が導入された細胞で著明に抑制された(P<0.0001)。IL-1で誘導されるA549細胞やHBE細胞のSLPIの産生がE1A遺伝子により抑制された。E1A遺伝子はA549細胞のSLPI mRNAの発現も低下させ、SLPIのプロモーター活性も低下させた。今回の研究により、アデノウイルスE1A遺伝子がヒト肺胞上皮細胞及び、気管上皮細胞のSLPI及び、Elafinの産生を低下させることが分かった。次に、SLPIの産生を低下させる機序として、TGF-β1による抑制が関与しているか検討した。気管上皮細胞のTGF-β1の産生はアデノウイルスE1Aによって著明に増加した。一方、TGF-β1抗体を培養液に加えて気管上皮細胞を培養してもSLPI産生には影響がみられなかった。したがって、E1AによるSLPI産生抑制作用はTGF-β1を介したものではないと考えられる。 これらの結果からアデノウイルスE1Aは肺胞上皮細胞や気管上皮細胞で蛋白分解酵素阻害物質の産生を抑制することで肺障害を惹起する可能性が示唆された。
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