前年度までに癌拒絶抗原の遺伝子クローニングと細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によりHLA拘束性に認識される抗原ペプチドの同定を実施した。その結果、6遺伝子によってコードされる新規癌抗原を同定することができた。これらの分子は肺癌を含む種々の癌細胞にubiquitousに発現しているものであった。これらにより日本人の約9割の患者のHLAタイプに対応できる癌ワクチンが開発可能となった。そこで、本年度はこれらのペプチド分子を用いたテーラーメイド型癌ワクチン療法のトランスレーショナルリサーチとしての臨床試験を実施し、その安全性の確認を行うとともに、免疫学的な基礎解析を行い当該ペプチドのワクチンとしての評価を行った。高度進行肺癌、胃癌、大腸癌、子宮頸癌、再燃前立腺癌、膵癌、および脳腫瘍を対象とした第1相/早期第2相臨床試験を実施した。その結果、いずれのペプチドによっても投与局所の炎症反応以外の重篤な有害事象は認められなかった。さらに、脳腫瘍(グレード3/4神経膠腫)においてはテーラーメイドペプチドワクチン療法単独で腫瘍縮小(PR)症例が得られ、延命効果も認められた。また、再燃前立腺癌症例においてはテーラーメイドペプチドワクチン単独療法では血清マーカーPSA値の一時的な低下がみとめられたものの、その後全ての症例が増悪(PD)となったため、低用量の抗癌剤エストラムスチンとの併用療法を実施した。その結果、14例中7症例がPR、5例が不変(SD)となり、明らかな延命効果も認められている。肺癌症例においてはテーラーメイドペプチドワクチン療法単独では顕著な有効症例は得られておらず、ペプチドワクチン療法に加え何らかの抗癌剤との併用が必要と思われ、現在検討中である。
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