前年度までに癌抗原の遺伝子クローニングと細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によりHLA拘束性に認識される抗原ペプチドの同定を実施し、6遺伝子によってコードされる抗原ペプチド10分子を同定した。これらの抗原は肺がん特異的なものではなく、他の腺がんや扁平上皮がんにも高発現していた。しかしながら、正常組織やそこで、これらのペプチド分子を用いたテーラーメイド型ペプチドワクチン療法のトランスレーショナルリサーチとしての臨床試験を肺がんのみならず他の癌種(大腸がん、胃がん、膵がん、前立腺がん、悪性脳腫瘍)にも適応を拡大して計178例(今年度新規登録は43例)に実施した。有害事象としてはワクチン投与局所の発赤・腫脹などの局所反応が主体であり、全身症状としては発熱(CTCAE ver.3のグレード2)が一部症例で認められたのみであった。これらの結果からテーラーメイド型ペプチドワクチンの安全性が確認された。また、脳腫瘍ではワクチン療法単独で抗腫瘍効果が得られた。また、ホルモン不応性再燃前立腺癌では低用量の抗がん剤エストラムスチンとの併用により抗腫瘍効果が得られた。一部のペプチドではワクチン投与前に実施する皮内テストで陽性を呈するものがあった。そこで、動物モデルを用いてその機構について詳細な検討を行った。その結果、ペプチドによって抗体非依存性にマスト細胞からの脱顆粒が誘導されること、しかしながら血中での急速な分解によりアナフィラキシーは誘導されないこと、これらは抗腫瘍活性とは相関しないことを示した。また、マウス同系移植がんモデルを用いて、がん局所にワクチンおよびOK-432を投与することにより、全身免疫で誘導されたCTLを癌局所に効率よく誘導でき、高い抗腫瘍効果が得られることを示した。
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