本研究の目的は、ファブリー病に対する遺伝子治療を確立するための基礎的検討を行うことである。ファブリー病モデルマウスにcDNA発現plasmidベクターにヒトα-galactosidase A(Gal A) cDNAを接続した遺伝子を導入し、遺伝子治療を行う。導入遺伝子は、ヒトα-Gal A cDNA遺伝子を強力な発現力を示すCAGプロモーターを持つcDNA発現プラスミドpKSCX(ヒトCMV-IEエンハンサー、ニワトリβアクチンプロモーター、ウサギβ-グロビンポリA、カナマイシン耐性遺伝子)に接続して構築したpKSCX-α-Gal Aである。これを研究代表者が開発した方法(腎静脈へ注射する方法)(Hum.Gene Ther.2002)を使って腎に導入し、治療効果について検討する。15年度に開発したマウスの腎への遺伝子導入法(Biochem.Biophy.Res.Commun.2004)を用いて11週齢のファブリー病モデルメスマウスの腎にpKSCX-α-Gal Aを導入し、遺伝子治療の経過を観察した。マウスの血液中、主要臓器中のα-Gal A濃度を分光蛍光光度計を用いて測定した。遺伝子を導入した左腎、血中、右腎、心、肝、脾などでα-Gal A濃度の上昇が認められた。これは、左腎で産生されたα-Gal Aが、血流に乗って全身臓器に取り込まれていることを示している。薄層クロマトグラフィーを用いてglobotriaosylceramide(Gb3)を測定した。α-Gal Aの欠損のため蓄積しているGb3の減少が左腎、右腎、心、肝、脾などの主要臓器で認められた。これは、α-Gal Aを産生している左腎のみならず、α-Gal Aを取り込んだ各臓器でα-Gal Aが基質であるGb3を分解していることを示している。一方、pKSCXを導入したファブリー病モデルメスマウスでは、α-Gal A濃度の上昇、Gb3の減少は認められなかった。以上から、pKSCX-α-Gal Aによるファブリー病モデルメスマウスに対する遺伝子治療効果が確認できた。
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