本研究の目的は、低酸素応答で中心的な役割を果たすことが知られているhypoxia inducible factor-1(HIF-1)が腎間質線維化の進展に関与することを明らかにすることである。昨年度は、1)実験モデルにおいては間質線維化の進展に伴って尿細管上皮細胞は低酸素状態になること、2)ヒト腎生検組織でFSP1陽性細胞の多くがHIF-1αを発現していること示した。本年度は以下に示す検討を実施した。 1.初代培養の尿細管上皮細胞におけるEMTの誘導 Cre-loxPシステムを用いて、尿細管上皮細胞をLacZでパーマネント標識した遺伝子改変マウスの摘出腎を用いて、尿細管上皮細胞の初代培養を行った。1%O2培養下でEMTの誘導について検討した。蛍光抗体法で、LacZをCy3(赤)、FSP1をCy2(緑)で標識し、Cy3+.Cy2+細胞をEMT由来の線維芽細胞と判定した。低酸素培養3日後には、20%O2培養下に比して1%O2培養下では、EMT由来の線維芽細胞数が有意に増加していた。 2.Von Hippel-Lindau tumor suppressor(VHL)遺伝子改変マウスにおける腎間質線維化の検討 Cre-loxPシステムを用いて、尿細管上皮細胞で特異的にVHL遺伝子を欠損させたマウスを作製した。VHLは、HIF-1αのユビキチンリガーゼとして作用することが知られている。尿細管上皮細胞でVHL遺伝子をターゲッテイングすることで、尿細管上皮細胞特異的にHIF-1が安定化される。UUOマウスでVHL遺伝子改変マウスに腎間質線維化を誘導し、HIF-1が間質線維化の進展に関与するか否かを検討した。左腎尿管結紮後8日目に、両腎を摘出し、抗FSP1抗体を用いた酵素抗体法を実施した。結紮側腎でのFSP1陽性細胞数は著明に増加していたが、コントロールマウスにおけるFSP1陽性細胞数も増加しており、有意差が認められなかった。非結紮側におけるFSP1陽性細胞数は、コントロールマウスに比してVHL遺伝子改変マウスで有意に増加していた。 (平成16年度の科学研究費補助金は、マウス維持費、抗体購入費などの消耗品購入に用いた。)
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