自然発症高血圧ラット(SHR)にヒト塩基性カルポニンを過剰発現させたトランスジェニックラット(bCN-Tg)を作成した。bCN-Tgにおいては高血圧発症が遅延すること、およびその腎組織からメサンギウム細胞の培養系を確立しえたが、そのメサンギウム細胞はwild typeからのものに比較しPDGF-BBによる増殖反応が制御されていることを証明した。さらにbCN-Tgに惹起した抗Thy-1腎炎においてはwild typeに惹起したものに比較し、メサンギウム細胞の増殖およびα平滑筋アクチンの表出からみた活性化のいずれもが有意に抑制されていた。さらに初期の増殖反応に引き続く糸球体における細胞外基質蛋白の蓄積をIV型コラーゲンで観察したが、明らかな蓄積抑制がみられPAS染色によってもメサンギウム領域の拡大の制御が確認できた。以上のようにbCNの過剰発現導入による高血圧発症抑制および腎障害の発症・進展を抑制することを明らかにしえた。bCNの過剰発現による血管平滑筋細胞およびそれと起源を同じくする腎のメサンギウム細胞の活性化の制御が高血圧およびその臓器、とくに腎障害の進展を抑制することが想定される。本研究により将来の高血圧および高血性腎障害の治療が降圧薬のみでなく、血管平滑筋および腎メサンギウム細胞の両者の活性化の制御を遺伝子治療によって可能とした場合に飛躍的にその治療効果が高まることの基礎データを構築できるものと考えている。
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