TGF-βのシグナル伝達分子Smadが明らかにされ、当初はSmadがTGF-βのシグナルのほとんどを伝えるものと予想されたが、Smad以外にも、TAK-1-TAB-1系、MAPK系など、多くのシグナル伝達系がTGF-β受容体の下流に位置することがわかった。TGF-βの標的遺伝子及び蛋白が細胞の種類や条件によって異なり、さらに糖尿病性腎症や糸球体腎炎のような病的状態におけるTGF-□のシグナル伝達に関しては、複数の分子が複雑に関与する可能性があり、また未知なる分子も関与することであろうと予想される。 糖尿病性腎症の発症及び進展過程では、高血糖の他、酸化ストレス、AGE(糖化最終産物)、アンギオテンシンII(Ang-II)、ポリオール代謝経路などが重要であるが、そのいずれもがTGF-βをメデエーターとして糸球体硬化や間質線維化に関与することが明らかにされている.TGF-βは上記の代謝異常の主なメデエーターと考えられるが、糖代謝そのものに影響を与えるものではない.糖尿病性腎症の進展過程では糖尿病の代謝異常に関与するメデエーターとTGF-βの作用発現に介在するメデエーターは重複するものとそうでないものがあると予想される.プロテオーム解析、すなわち、機能蛋白を含む蛋白の発現パターンの変化を読みとることで新規の標的蛋白を同定が可能となってきたため、この手法により、新たなTGF-βの標的蛋白分子の同定のため、主に糖尿病性腎症を対照として研究を行った. 培養メサンジウム細胞をAGE存在下で培養を行い、細胞内に活性酸素の増加を認めた、さらにこれはAng-IIの産生増加をもたらし、これがTGF-βの産生と分泌を増加させた。この結果、Smad蛋白が活性化され、細胞外基質タンパクであるファイブロネクチンの産生を遺伝子レベル・蛋白質レベルで増強する一方、基質分解を抑制するPAI-1の産生を促進した。この結果より、AGE がAng-IIを介してTGF-β/Smadを介して糖尿病性腎症に寄与することが明らかになった。 さらに培養平滑筋細胞において、TGF-βは、Smad4のリン酸化及びSmad4を介してPAI-1の産生を増強することを明らかにした。 この系を用いて、AGEやTGF-□に関連する標的分子を明らかにしていく
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