研究概要 |
メモリーリンパ球は多発性硬化症(MS)の再発の病態に深く関わっている。最近、ケモカイン受容体CCR7がメモリーT細胞サブセットを規定することが報告されている。すなわち病変で炎症性サイトカインを放出しエフェクター機能を発揮した後アポトーシスに陥るeffector memory T細胞(emT,CD45RO+CCR7-)とエフェクター機能に乏しいがアポトーシス抵抗性で免疫記憶を保持するcentral memory T細胞(cmT,CD45RO+CCR7+)が知られている。CCR7とそのリガンド分子CCL19の発現を中心にMSにおけるメモリーT細胞の動態を解析した。 (1)通常型MS(CMS)、視神経脊髄型MS(OSMS)、対照群のメモリーT細胞サブセットをフローサイトメーターで解析した。全群でemTは血中より髄液中で高値だった。またcmTは再発時のCMS及びOSMSの髄液で血液及び他群の髄液中より高値であった。したがって両MS病型の再発の病態においてcmTが重要であることが示唆された。 (2)CMSの剖検脊髄組織では病変部位への浸潤リンパ球や樹状細胞などにCCR7が発現し、病変近傍の小血管壁にCCL19が発現していた。この結果はMS病変におけるメモリー細胞や抗原提示細胞の遊走や機能発現にCCR7系が関与していることを示している。OSMSでも同様の傾向がみられた。またメッセージ解析でもこれらの結果が支持された。 (3)培養リンパ球でのCCR7発現とそのクロナリティーについてはCDR3 Spectratypingで解析したが、症例に共通した特定のVβの増幅は確認されなかった。今後さらに検討が必要である。 本研究によりMSの免疫病態において免疫メモリー、細胞遊走、抗原提示などの点でCCR7系が関与していることが明らかになった。
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