今年度我々はまず、ポリグルタミン病の一つであるマシャド・ジョセフ病をモデルとして、その原因遺伝子によりコードされているポリグルタミン鎖が77個に伸長したataxin-3のN末側を欠失させたdeletion constructを用いて薬物のスクリーニングを行った。培養neuro2a細胞あるいはBHK細胞に上記のconstructを一過性に遺伝子導入したのち、各種薬物を含有したmediumに交換し、44時間後に細胞を固定した。組みかえタンパクの発現は、タグを認識する抗myc抗体と蛍光標識2次抗体を用いて検討し、あわせて核DNA染色を行った。蛍光顕微鏡下に、組みかえタンパクの発現が見られる細胞について、細胞内凝集体の形成頻度と核染色で判定した細胞死の頻度を評価した。すでにこれまでの我々の検討で、タンパクの高次構造を安定化させることが知られている一群の物質(DMSOやグリセロール等)がこれら両者の頻度を減少させる上で効果があることがわかっているので、今回はこれら以外のタンパクの高次構造に影響を与える可能性のある物質を中心に検討を行った。まず、好塩細菌から分離されタンパクの高次構造を高い塩濃度下でも安定化させると考えられるectoineに注目して検討を行った。Neuro2a細胞においては50mMから150mMの濃度において、細胞内凝集体の形成頻度を減少させることはなかったものの、濃度依存的に細胞死頻度を抑制することが明らかとなった。ちなみにcontrolでの細胞死頻度が33.5±4.1%に対してectoine50mMで28.7±1.8%、100 mMで20.9±2.6、150mMで18.6±1.7%であった。(数字はmean±SE)このectoineの効果はBHK細胞でも100mMの濃度で確認された。以前に我々が報告したDMSOの効果は、凝集体形成に対しても細胞死に対してもともに抑制的に作用していたが、今回検討したectoineの効果はそれと異なり、凝集体形成頻度に影響を与えることなく細胞死を抑制していることから、DMSOなどとは異なったメカニズムが関与している可能性がある。今回は、これに加えてproline(10-100mM)、Carnitine(10-100mM)の効果もあわせ検討したが、これらに明らかな凝集体形成頻度や細胞死頻度の低下作用は認められなかった。本年は動物モデルでの検討が動物の繁殖上の問題で行えなかったので、異常ataxin-3発現による毒性に対する薬物の新たなアッセイ法の開発を行っている。これまでに、培養細胞に全長の異常ataxin-3を発現させることである種の酵素活性が低下する可能性があることを見い出したため、そのメカニズムとあわせてこの系をアッセイに使用する可能性について検討中である。
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