本研究では、ポリグルタミン病の一つであるマシャド・ジョセフ病をモデルとして、その原因遺伝子によりコードされているポリグルタミン鎖が77個に伸長したataxin-3のN末側を欠失させたdeletion constructを用いて薬物のスクリーニングを行った。培養neuro2a細胞に上記のconstructを一過性に遺伝子導入したのち、各種薬物を含有したmediumに交換し、44時間後に細胞を固定した。組みかえタンパクの発現は、タグの間接蛍光抗体法あるいはGFPタグの蛍光で評価し、細胞死は核のDNA染色および細胞のannexin-V染色で行った。我々は今回、好塩細菌から分離されタンパクの高次構造を高い塩濃度下でも安定化させると考えられるectoineに注目して検討を行った。Ectoineは50mMから150mMの濃度において核内の凝集体形成頻度を著明に増加させ、細胞体の大型の凝集体形成は抑制した。イムノブロットでみた組かえタンパクによる凝集体の総量はectoine投与群で減少しており、ectoineが細胞内の凝集体の分布に影響を及ぼしたものと考えられた。一方、ectoine投与後には濃度依存的に細胞死頻度が減少した。凝集体の分布変化や細胞死抑制といったectoineの効果は、ectoineと同程度に浸透圧を上昇させる濃度のsucrose投与では見られず、単純に浸透圧変化による効果ではないものと考察される。以上の研究から、ectoineのin vitroにおける伸長リグルタミン誘発細胞死に対する効果が明らかとなったため、同様のコンストラクトをオレキシンプロモーターの下流につなぎ、出生後にオレキシン神経の細胞死を誘導できるトランスジェニックマウス(Tg:本学薬理学教室作成)を用いて効果を検証した。出生10日後より2週間にわたって連日ectoineを50-100mg/kg量で腹腔内投与し、その後脳を灌流固定し連続凍結切片を作成後、抗オレキシン抗体で免疫染色してオレキシン陽性神経細胞の数を定量した。結果は解析中であるが、正常マウスで約2000個程度のオレキシン神経細胞はTgでは約150個程度に減少し、ectoine100mg/kg投与群で300個程度とやや増加した。
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