本研究では脊髄小脳失調症6型(SCA6)の分子病態を明らかにする目的で、動物モデルの作製を行っている。SCA6はヒトα1A-カルシウムチャネル遺伝子内のCAG repeatが健常者でみられる回数より異常に伸長していることが原因で起きる脊髄小脳変性症の1病型である。しかし、患者で見られるCAG repeatの繰り返し回数はたかだか30回程度と短く、その程度の異常伸長ではマウスに異常を来たすことは困難であることがこれまでの様々な研究結果から予測される。このため、本研究ではCAGの繰り返し回数を150回程度にはるかに長い伸長(超伸長)鎖にし、それをマウスに導入、そのために神経症状あるいは神経変性の所見が明らかになることを期待して計画した。初年度である本年度は、本来CAG repeatが存在するカルボキシル末端側の部分α1A-カルシウムチャネル遺伝子に超伸長CAG repeatを有するクローンをプロモーターと共にクローニングすることに成功した。現在この組み換え体遺伝子をマウスに導入しつつある。さらに同じ超伸長ポリグルタミン鎖を発現する全長ヒトα1A-カルシウムチャネル遺伝子の構築を手がけており、続いて遺伝子導入を予定している。来年度にはこれら変異遺伝子を導入したマウスの樹立を行い、順調に系が確立すれば導入遺伝子の発現パターンや導入遺伝子の産物である異常蛋白の発現を確認する。さらに、個体レベルの解析や神経病理学的な解析を行う予定である。 一方、患者脳での変異蛋白の発現についてwestern blottingや免疫組織化学的な手法により解析を行い新たな知見を得た。これまで研究代表者はα1A-カルシウムチャネル蛋白のポリグルタミン鎖に近い部分のペプチドに対する抗体を作製してきた。この新しい抗体を用いてまず患者脳での免疫組織化学的解析を行ったところ、これまでに認めていた2種類の封入体は実は同じ封入体であることが判明した。すなわち、ポリグルタミン鎖とその周辺を含むヒト部分α1Aカルシウムチャネル蛋白がまず凝集して、ポリグルタミン封入体が構築される。次にこれが集まって何らかの機序により全長のα1A-カルシウムチャネル蛋白が凝集する、ことが組織化学的に示唆された。一方、western blottingでは健常者のみならず患者脳でも確かにα1A-カルシウムチャネル蛋白が発現していることが確かめられた。このうち、患者脳では健常者に認めにくいサイズの蛋白断片を検出した。SCA6患者脳は剖検数が少なく貴重であり、今回の検討では2検体でしか確認できていない。今後検体数を増やして結果の再現性を確認する必要がある。今回の知見は現在誌上報告の予定で、現在準備中である。さらに、この結果を踏まえて、先述のモデルマウスが作製されれば同様の解析をマウス脳でも行う予定である。
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