我々は、本研究を通して脊髄小脳失調症6型(SCA6)動物モデルの作製を試みた。初年度には目標とした超伸長ポリグルタミン鎖をコードする部分α1A-カルシウムチャネル遺伝子cDNAを構築したため、平成16年度の初頭にこの遺伝子をC57/B6Jマウスに通常のマイクロインジェクション法によって遺伝子導入し、トランスジェニックマウスの作製を試みた。遺伝子導入の結果、100匹程度のマウスの尻尾よりDNAを抽出してPCR法より遺伝子導入の有無をスクリーニングしたが、わずか2匹にしか遺伝子の導入がされず、マウスを作製・樹立できなかった。その後も2回インジェクションを繰り返し、同様に多数のマウスをスクリーニングしたが遺伝子を導入できなかった。このため平成16年8月頃よりマウスの背景をFbvに替えてマイクロインジェクションを行った。平成17年1月までに2匹に遺伝子を導入でき、正常Fbvマウスとの交配によって1匹のF1世代マウスを得た。しかし、最終的には1匹のF1マウスを得るに留まり、解析を行える状態には至れなかった。効率よく遺伝子導入を行えなかった理由は定かではないが、伸長CAG repeat自体は他の疾患モデルとしてマウスに導入できているため、この他の部分の塩基配列が導入高率に関係した可能性が挙げられた。 また、平成15年度初頭に作製した通常長の伸長ポリグルタミン鎖を有する全長α1A-カルシウムチャネルを発現するTG-03マウスは、平成16年度に複数のマウスラインを樹立した。さらにこのマウス脳からRNAを抽出してRT-PCRを行い、導入遺伝子が確かに脳で発現していることも確かめた。これまでに同マウスについて観察を続けてきたが小脳失調などの症状は発現しなかった。 さらにポリグルタミン鎖付近のペプチドを認識する新しい抗α1A-Caチャネル抗体を作製した。これを用いて患者脳を免疫組織化学やウエスタンブロットで解析したところ、患者脳ではポリグルタミンの伸長によってカルシウムチャネルが蛋白分解しポリグルタミン鎖を含む断片が凝集する可能性を見出した。 以上の研究により、マウスの樹立・解析までは到達できなかったが、我々の知る限り本疾患の最初のモデルマウスの作製を行いつつある。これまでのところ明らかな症候の発現はないが、様々な負荷を与えることで個体レベルでの何らかの異常を認める可能性がある。また患者脳で見られた封入体形成過程については誌上公表を行うべく準備を行った。
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