研究概要 |
本研究では脊髄小脳失調症6型(SCA6)の分子病態を明らかにする目的で、主として動物モデルを作製することを目標とした。また患者脳での生化学的・神経病理学的研究と細胞モデル作製も行った。 SCA6はヒトα1A-Caチャネル遺伝子内のCAG repeatが20〜30回と軽度ながら異常に伸長しているために発症する常染色体優性遺伝性脊髄小脳変性症である。CAG repeatはポリグルタミン鎖に翻訳されるため、患者脳では異常伸長したポリグルタミン鎖を含むチャネル蛋白が発現し、凝集している(Ishikawa et al.,1999;同、2001)。これまでの種々の研究から30回程度の軽度伸長したCAG repeatをマウスに導入しても有効なモデル作製には至らないと予想される。このため165回のポリグルタミン鎖をコードする人工部分ヒトα1A-Caチャネル遺伝子cDNAを初年度に構築し、2年度の最初にこれをマウスに導入した。2年度の8月頃までに2回のmicroinjectionを行ったが、最初に用いた通常のC57BCマウスには遺伝子導入ができなかった。このため、9月頃にC57B6JからFbvマウスに変更して2回導入した。1回目の導入で1匹初代マウスが得られ、系代にて1匹のFI世代マウスが得られたが、2回目の導入では1匹も導入できなかった。現在F1マウスを苦心して維持しているが、マウスを樹立することは困難が予想される結果となった。その原因としては他の類縁疾患のモデルではライン樹立に成功していることから、CAG repeat数が長いことが関係しているとは考えられない。なお、24回の軽度伸長CAG repeatを含む遺伝子はマウスヘの導入に成功し、遺伝子発現まで確認できた。以上のことから今後マウスを交配するなどで樹立成功に至る可能性はあると期待している。 この他、α1A-Caチャネル蛋白のポリグルタミン鎖付近のペプチドを認識するポリクローナル抗体を作製した。これを用いて初年度から脳でのチャネル蛋白発現様式を検索した。その結果、これまで報告してきたポリグルタミン鎖を有する凝集体は、この抗体でも認識された。したがって、α1A-Caチャネル蛋白がポリグルタミン鎖付近でプロセッシングを受けて断片化して、先にポリグルタミン鎖を含む部分チャネル蛋白が凝集する可能性が高いことを明らかにできた。培養細胞に全長チャネル遺伝子を導入してウエスタンプロットで検証した場合にも、断片化が支持されている。以上の結果を最終的にヒト脳でのウエスタンブロット法で確認して誌上公表を行う予定でいる。
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