研究概要 |
無セルロプラスミン血症は、血清のセルロプラスミンの欠損と、脳・肝・膵をはじめとする全身の諸臓器への鉄の沈着を来し、神経症状、網膜変性、糖尿病を呈する常染色体劣性遺伝の鉄代謝異常症で、我々が1987年に世界で初めて一家系を報告した。我々の症例を含め現在までに国内外37家系が報告されている。既に29の遺伝子異常が同定されている。今回は、新たに同定された5家系の遺伝子異常を解析するとともに、新たなミスセンス変異を培養細胞で発現させ、変異タンパクの細胞内挙動を検討した。 いずれの症例も、臨床的には従来より報告されている三症候が認められ、脳をはじめとした組織への鉄蓄積を呈している。新たに同定されたTruncation mutationは2,Missense mutationは3である。同定したミスセンス変異をもつcDNAを、セルロプラスミンを発現していないチャイニーズ・ハムスターの卵巣細胞に導入し、蛋白を発現させて解析した。その結果、1)ミスセンス変異による変異蛋白の細胞内挙動では、変異蛋白が小胞体にとどまりゴルジ装置への移動が起こらないもの、細胞外へ分泌されるが銅を抱合していないためにフェロオキシダーゼ活性を持たない異常蛋白が認められるもの、細胞外へ分泌されるが速やかに分解されてしまう異常蛋白のものであることが分かった。 2)小胞体に留まる蛋白は封入体を形成するものがあった。 3)銅を抱合しない蛋白の半減期の短縮は軽度であった。 4)速やかに分解される蛋白のフェロオキシダーゼ活性は通常の半分から1/3であった。 今後は、小胞体に留まった蛋白がどのように分解されていくか、あるいは封入体形成がどのように行われていくかについて検討する必要がある。
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