研究概要 |
ラット中大脳動脈モデルを用いて血管閉塞1-7日目にかけて、哺乳類発現ベクター(pIRESベクター)に挿入されたコントロールDNA(Green Fluoresence Protein:GFP;pIRES-EGFP)を各種のリポゾーム(Lipofectin,DOTAP,Fugene6)と混合した後、尾静脈より静脈内投与した。ベクター投与2日後に、脳切片を作成し、脳梗塞領域でのGFPの発現を蛍光顕微鏡で観察したところ、正常ラット脳ではGFPの発現はほとんど見られないが、1-7日目にかけて4日目をピークとしたGFP陽性細胞の顕著な増加が観察された。GFP陽性細胞の種類を同定するため、神経細胞、アストロサイト、マクロファージの細胞マーカーに対する抗体を用いた免疫蛍光染色を行ったところ、GFP陽性細胞の大部分はマクロファージであった。次に、この遺伝子導入手段を用いて脳梗塞後に見られる神経前駆細胞の増殖を亢進することができるかどうか検討した。神経幹細胞の増殖因子としてよく知られているFibroblast growth factor-2(FGF-2)の遺伝子導入を試みた。マウスFGF-2cDNAをpIRES-EGFPプラスミドに挿入し、pIRES-EGFP-FGF-2ベクターを作成した。前述の実験でEGFPの発現が最大であった中大脳動脈閉塞4日目に、pIRES-EGFP-FGF-2ベクターを静脈内投与した。翌日に増殖細胞を標識するためBrdUを腹腔内投与して、翌日(ベクター投与2日後)に動物を灌流固定し、側脳室下帯(SVZ)でのBrdU陽性細胞数を算出した。虚血側半球SVZでは、正常動物、反対側SVZに比較して有意ではないが増加する傾向があった。コントロールベクターであるpIRES-EGFPの静脈内投与は、BrdU陽性細胞数を増加させなかったが、pIRES-EGFP-FGF-2ベクターを導入したところ、虚血側SVZにおけるBrdU陽性細胞数が有意に増加した。本研究成果より、ラット中大脳動脈永久閉塞モデルにおいて、静脈内投与による脳梗塞領域への遺伝子導入手段の開発が可能であると考えられた。
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