研究概要 |
虚血性損傷脳における効果的な神経細胞新生促進を得るための非侵襲的な遺伝子治療の開発を試みた。遺伝子治療の標的として正常脳にはみられないが、虚血組織に顕著に出現するマクロファージを脳梗塞に対する遺伝子治療のターゲットとした。まず培養マクロファージ細胞(J774.1 cells)に各種のリポソームと哺乳類発現ベクター(pIRES-EGFPベクター)を混和したのち遺伝子導入を行い、翌日にEGFP陽性細胞数で遺伝子導入効率を算出したところ、リポソームとしてリポフェクチンを使用した場合に最も遺伝子導入効率が高かった。 In vivoの実験系としてラット中大脳動脈永久閉塞モデルを用いて脳梗塞を作成し、発症後経時的な虚血組織、梗塞組織への炎症細胞マクロファージの集積程度を評価したところ、虚血1日後よりマクロファージの梗塞組織への顕著な浸潤が見られ、虚血7日ごろまで持続して観察された。次に虚血発症1,4,7日目に大腿静脈より3.2μgのpIRES-EGFPベクターとリポフェクチンを混和して静脈内投与し、2日目に脳組織切片を作成し,EGFP陽性細胞を算出したところ、虚血4日目をピークとしたEGFP陽性細胞の脳内浸潤が観察された。従って以後の実験では中大脳動脈閉塞4日目に遺伝子導入を行うこととした。遺伝子導入用のベクターとしては、マウス塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)cDNAをpIRES-EGFPベクターにサブクローニングしたもの(pIRES-FGF2-EGFP)を用いた。ラット中大脳動脈閉塞4日目にpIRES-FGF2-EGFPを大腿静脈より投与し、2日目に脳組織切片を観察するとEGFP陽性細胞にFGF-2の発現が観察された。中大脳動脈閉塞7日目に、虚血側側脳室下帯における神経幹細胞または神経前駆細胞の増殖はpIRES-FGF2-EGFP投与群でコントロールベクター投与群に比べて有意に増加していた。 本研究成果は、脳梗塞亜急性期に脳へ集積するマクロファージを標的とした非侵襲的な新しい遺伝子治療法の開発につながるものと考えられた。
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