研究概要 |
多発性硬化症(MS)では病理学的には脱髄が認められ,これに種々の程度の軸索障害が伴っている.近年,軸索障害が後遺症としての神経脱落症状と深く関連することが明らかになり,軸索障害の機序が注目されるようになった.ここでは,軸索障害の病態を解明する一助となるべく,神経細胞や軸索に発現する蛋白質に対する免疫応答に着目し,軸索障害に関連する蛋白質の同定,機能解析にプロテオーム解析法を応用した. MS,視神経脊髄型MS類似の病態を示した症例,慢性皮質性炎症性疾患などの患者を対象とした.ヒト脳,ラット脳・肝臓のホモジネートを用い,一次抗体として患者血清を使用して,一次元免疫ブロット法により,抗神経抗体の検索を行った。次に,患者症例の自己抗原を,二次元免疫ブロッティング/質量解析により解析した.ヒトの脳ホモジネートを二次元電気泳動にて展開し,PVDF膜にブロッティングを行った.一次抗体として患者血清を用いてスポットを検出し,ゲル状のスポットとのマッチングを行った.ゲルから切り出したスポットを用いて質量分析を行い,データベース検索による蛋白質同定を行った.二次元免疫ブロットでは検出されたスポットを切り出し,質量スペクトルを質量分析装置で解析した.慢性皮質性炎症性疾患および視神経脊髄型MS類似の病態を示した症例,通常型MSなどより抗神経抗体の存在が確認された.慢性皮質性炎症性疾患の二次元免疫ブロットの結果,正常ヒト脳ではみられない3つのスポットが検出され,質量分析の結果,これらのうち1つはfascinであることが同定された.また抗神経抗体が検出された通常型MS症例も同様の手法で検索を行い、HSP70が同定された.fascinは,軸索とoligodendrogliaの結合をつかさどる蛋白としての側面も持ち,この分子に対する自己抗体の存在がMSおよびその類縁疾患において軸索障害の発症メカニズムの一部を構成しているであろうことが予想される.今後,自己抗原となる軸索関連蛋白の同定とその評価が必須である.
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