研究概要 |
重症筋無力症(以下MG)患者の約20%では,血清抗アセチルコリン受容体抗体(以下抗AChR抗体)が検出されず,sero-negative MGとしてその病態機序の解明が進められている.2001年,Hochらは,運動終板に存在する筋特異的チロシンキナーゼ(muscle specific tyrosine kinase, MuSK)蛋白をsero-negative MGの標的抗原と考え,抗体測定を行った。その結果,sero-negative MG患者の50〜70%で抗MuSK抗体が検出されると報告している.本邦では、抗AChR抗体陰性重症筋無力症に抗MuSK抗体陽性患者の占める割合は約20%程度に認められる。患者は全例女性で、球麻痺や呼吸筋麻痺を来しやすい。また、抗AChR抗体陽性MGに比べ抗MuSK抗体陽性患者ではテンシロンテストの判定が困難で、また、臨床検査ではwaningも証明しにくい。また、抗MuSK抗体陽性患者では、従来のMGと比較して運動終板への補体の沈着もない。(7名中1名が補体の沈着あり、抗AChR抗体陽性MGではほぼ100%で陽性。また、抗AChR陽性MGに比較して、組織上の運動終板でαバンガロトキシンでラベルしたアセチルコリンレセプター量は、減少が少ない。運動終板での運動終板の微細構造は運動終板面積が減少するが、membrane densityの減少はない。神経終末のシュワン細胞に被われていない部分の長さに対する後シナプスのMembraneの長さの比を比べると、抗MuSK抗体陽性患者では減少している。MuSKはアグリンを介してアセチルコリン受容体の形成に関与していることと矛盾しない。重症筋無力症の発症原因として、抗MuSK抗体も関与している。
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