研究概要 |
本研究は、パーキンソン病のモデルサルとアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる遺伝子導入技術を応用して線条体に特有の高次脳機能を明らかにすることを目的とする。今年度は、学習過程における大脳基底核の機能を検討するために、1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)の慢性投与によるパーキンソン病モデルサルを作製し、認知能力の評価実験を行った。カニクイザル(Macaca fascicularis)7頭を使用し、4頭にMPTPを投与し、3頭は健常対照とした。ボタンまたはタッチパネル付きディスプレイと接続したコンピュータ制御の自動実験装置を作製し、色弁別課題、P-N課題、見本合わせ課題を行った。その結果、色弁別の能力自体はMPTP群においても維持されていたが、色弁別に加え、セットシフトを要求するP-N課題の学習成績は健常サルと比べ悪く、MPTPサルはセットシフトの障害を持つことが示唆された。この原因として、MPTPサルは「直前まで正刺激であった刺激への反応を抑制する」ことが困難であるというよりはむしろ、「新奇な刺激への反応を増加させる」ことや「正刺激に対して安定して反応する」ことが困難であることが示唆された。P-N課題と比べてより抽象的な手がかりに基づくセットシフトを要求する見本合わせ課題では、MPTPサルはP-N課題よりも重篤な障害を示した。今後の課題はヒトにおけるWisconsin Card Sorting Testにより近い課題を用いてMPTPサルの抽象的セットシフト能力とそれを支えるワーキングメモリの能力を評価することであると考えている。次年度は、遺伝子導入技術を応用してさらに検討を行う。
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