我々は、アルツハイマー病(ア病)の発症メカニズムの解明と治療法確立のための疾患特異性の高いア病のモデルニューロンの樹立を目的とした。基本的なストラテジーはAPPのV642I変異をマウスES細胞にノックインした後、これをin vitroで高純度の神経細胞へと分化誘導するという方法で、最終目標はヒトES細胞によるア病モデルニューロン樹立である。カニクイザルES細胞によって研究を始めたが、最近のゲノム情報の充実度からみるとカニクイザルよりマウスES細胞のほうが適しているので、ヒトES細胞が得られるまで、マウスES細胞で研究を続ける事にした。 まず第1に種々の家族性ア病変異の比較のためV642I-APPノックイン神経細胞に加えてI213T-PS1ノックインES細胞由来の神経細胞を分化誘導により作成した。これら変異ノックイン神経細胞において共通に発現が変化する遺伝子をマイクロアレイにより検索した。この結果7種類の遺伝子がAPP、PS1変異神経細胞でともに野生型と比較して2倍以上上昇していた。real time PCRにより定量したところ、マイクロアレイの結果をだいたいサポートした。 第2に他の神経変性疾患モデルとの相互比較を試みた。常染色体優性遺伝の家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)のモデルニューロン作成のため、SOD1変異の一つであるG93R-SOD1を選びノックインES細胞の作成と共にtransgenic ES細胞を作成している。このES細胞の分化誘導にレチノイン酸とsonic hedgehogを組み合わせ、脊椎運動ニューロンを効率良く分化する方法を模索中である。sonic hedgehog産生細胞をES細胞由来の神経とco-cultureするとOlig2の発現上昇が観察されモーターニューロンへの分化が促進されたことを強く示唆している。この方法をア病モデルニューロンにも還元する。
|