研究概要 |
パーキンソン病(以下PD)では様々な認知障害が生じることが知られていたが、それらの多くは遂行機能および記憶(手続き記憶)に関するものである。本研究では、新たな視点から上記障害以外の認知障害の有無を行動解析および脳波(事象関連電位)を用いて検証することを目的とした。得られた結果は以下のとおりである。 1)我々の先行研究により、PD患者において特定の表情の認知(恐怖および嫌悪)が障害されていることが示されていたが(Kan et al.,2003)、本研究で実施した事象関連電位の結果からもPD患者の表情認知の特異性を示唆する所見が得られた。双極子追跡法を用いた結果、健常者に比較してPD患者では表情認知課題試行中に運動前野および扁桃体の活動が見られなかったことから、PD患者では大脳基底核に加え扁桃体にも病変の存在が想定された(Yoshimura et al.,2005)。 2)近年、新たな前頭葉機能課題として「心の理論」や「社会的な意思決定」が知られている。PD患者においても前頭葉機能の低下が存在することが想定されており、本研究では、両課題を用いてPD患者の障害を検出可能か検討した。その結果、「心の理論」の必須要素である他者の心的状態を推測する機能の一部が障害されていること、加えて社会的な意思決定も部分的に障害されていることが見出された(Oheda et al.,in prep)。 上記のように、PD患者において従来知られていたような遂行機能や記憶機能以外にも、感情認知や社会的認知などの認知機能障害が存在することが明らかになった。また、大脳基底核以外の病変もこれらの課題によって描出できる可能性が示された。
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