高齢者において進行性核上性麻痺(PSP)病変が早期から進行期にいたるまで連続的に出現する可能性、すなわち、老年性変化の一つとしてPSP病変が存在する可能性を示したが、本年度は昨年度までに抽出した、病理学的にPSPと診断した症例について後方視的検討を加えた.すなわち、PSPはパーキンソニズムや痴呆を呈する神経変性疾患として知られるが、高齢者では非定型的な表現型をとることも多く、臨床病型の多様性が示唆されてきた.この詳細を明らかにするために、NINDS神経病理診断基準を満たすPSP51例について、その臨床診断、パーキンソニズム・痴呆の有無、死亡年齢、脳重などを比較した.51例のうち、パーキンソニズムの有無に注目して分類すると、パーキンソニズム(-)群は20例あり、さらに痴呆の有無でパーキンソニズム(-)痴呆(-)群6例、パーキンソニズム(-)痴呆(+)群14例に分けられた.死亡年齢はパーキンソニズム(-)痴呆(-)群:90.5±9.8歳、パーキンソニズム(-)痴呆(+)群:85.5±7.5歳といずれもパーキンソニズム(+)群に比し有意に高齢であったが、脳重には有意差を認めなかった.パーキンソニズム(+)群は31例あり、痴呆が明らかでない10例と、痴呆も伴う典型的なPSP21例から成っていた.また、生前神経内科医の診察で小脳性運動失調症状を認め、脊髄小歯変性症と鑑別上問題となった症例が2例認められた.この2例の病理学的所見はとくに他のSPと比して異なるものではなく、臨床的多様性の責任病巣は明らかではなかった.高齢発症のPSPには、パーキンソニズムが前景に立たない非定型例、特に痴呆のみ呈するサブグループが存在することが明らかとなった.
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