傍腫瘍性小脳変性症関連抗原遺伝子pcd-17を導入したトランスジェニックマウスにおいては野生型に比べて明らかな臨床的及び病理的なphnotypeの違いは見出せなかった。これらのトランスジェニックマウスの臓器の解析では野生型マウスでは発現していない脾細胞に導入された遺伝子による抗原の発現を確認し得た。2年間の長期にわたり観察したが、悪性腫瘍の高率な発生を確認することはできなかった。 pcd-17蛋白はMORFファミリー蛋白MRG15と有意に結合し得ることを証明した。pcd-17とMRG15をB-mybプロモーターレポータープラスミドと共発現させることにより、B-mybプロモーターに対して、pcd-17プラスミド単独では影響を示さないが、MRG15プラスミドと共発現させると、MRG15の活性作用に対して抑制性に作用する結果を得た。さらに、抗Purkinje細胞抗体(Yo抗体)を細胞内に移入してその影響を検討すると、pcd-17によって抑えられていたMRG15のB-mybプロモーター活性に対する脱抑制作用を示す結果が得られた。pcd-17はMRG15との結合を介してB-mybプロモーター活性を制御し得ることが明らかになった。このことは、pcd-17が小脳・脳幹の神経細胞に対し、Rb-E2F系を介した代謝調節に関与し、細胞の生存死に重要な働きをしている可能性が示唆された。 傍腫瘍性小脳変性症動物モデルを作製する試みとして、酵母にマウスpcd-17遺伝子を導入して作製したrecombinant yeastを用いてwhole recombinant yeast免疫を行った。その抗原性を確認するとSJL/Jマウスがヒトのエピトープであるleucine zipper領域に対して反応することが確認された。この免疫により、SJL/Jマウスに対してヒトにみられると同様の抗Purkinje細胞抗体を誘導した。また、whole recombinant yeastで感作したSJL/Jマウスのリンパ球を抗原刺激することによりInterferon-gammaの産生がみられる結果を得た。この結果は新しい免疫手法によりSJL/Jマウスにヒトと同じepitopeに対する自己免疫現象を誘導し得ることを初めて明らかにした。
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