1.正常者10名を対象とし、手の随意運動時にarea44を磁気刺激し、上肢筋から表面筋電図の記録、ビデオ撮影、上肢運動機能評価システムによる検査を行い、area44が手の随意運動に与える影響を検討した。area44磁気刺激により手の随意運動は大きく影響され、area44は運動出力に対して促通性および抑制性効果を有することが示された。その効果は同側の運動に対しても認められ、両手の協調動作に関与していることが推測された。またarea44磁気刺激によりM1刺激と同じ潜時のMEPが誘発されたことから、area44には直接下行するfast-conducting corticospinal projectionsが存在することが示された。 2.脱力はないが種々の原因疾患のために手の随意運動障害を呈した患者を対象としてarea44を8の字コイルを用いて磁気刺激し、両手からMEPおよび表面筋電図の記録を行った。手の運動が拙劣である例では(1)MEPが誘発されないあるいは潜時延長(2)MEP誘発されず、抑制・促通効果も認めない(3)MEPが誘発されてもcortical silent periodが消失などの異常が認められた。area44自体の異常を示す群とarea44と他の領域(M1など)との結合に異常がある群、両者とも異常を示す群に区分された。今回の結果はヒトarea44が手の随意運動において重要な領野であることを示している。 3.ヒトのミラー・ニューロン・システム(MNS)はブローカ野とくにブロードマンarea44に存在すると推測されている。area44を経頭蓋的磁気刺激(TMS)すると手の筋から運動誘発電位(MEP)が誘発される。同部位をTMSする方法を用い、MNSの機能を検討した。健康成人6名を対象とし、母指球筋から以下の4つの条件下でのarea44 TMSによるMEPを記録した。(1)等張性持続筋収縮(2)意味のない指タッピング運動(3)持続性収縮を保ちながら手指の動きを観察する(4)数字を示す手指の動作を観察しながら模倣(5)数字を発声しながら同時に手でその数を示すジェスチャーを行う。持続筋収縮時と比較して後者2つの条件下ではMEP振幅の明らかな振幅増大が認められた。この結果は同部位が手の模倣および発語に関連した手指の動作に関与していることを示していると考えられた。
|