高齢ハンセン病患者において、痴呆発症頻度が低いことが示されている。痴呆発症を制御する未知因子として、抗炎症作用を有するハンセン病治療薬、スルフォン剤(DDS)がその有力候補として挙げられていたが、このDDSをはじめ主なハンセン病治療薬は、ハンセン病患者の痴呆発症頻度、in vitroにおいては神経細胞死、アミロイド蛋白による神経細胞毒性に何ら影響を与えないことを明らかにしてきた。そこで次に、ハンセン病の原因菌Mycobacterium leprae (M.leprae)の中枢神経感染が、ハンセン病患者の脳代謝に影響を及ぼし痴呆発症を制御するという仮説の基、M.lepraeの感染がアミロイド蛋白による培養神経細胞毒性に及ぼす影響について検討した。その結果、M.lepraeを感染させたグリア細胞(ラットオリゴデンドロサイト、シュワン細胞)が産生する可溶性因子、またM.leprae特異的な膜成分が、アミロイド蛋白による神経細胞のアポトーシス、細胞毒性を減弱する効果を見いだした。そこで今年度も引き続きその活性本態の同定を行った。感染細胞培養上清より神経細胞死を抑制する可溶性因子を、ゲル濾過法、イオン交換、逆相クロマトにて精製後、2次元電気泳動-質量分析を用いたプロテオーム解析を行った。2次元電気泳動で得た試料について、Typhoon(Amersham Bloscience)で画像を取り込みDecyderにて解析する。解析した蛋白spotを採取しゲル内消化を施した後、MALDI-TOF型質量分析計(Applied Bioscience)にて解析、PMF法、MS/MS解析にて同定を試みた。Mascot検索を行った結果、既知の神経栄養因子等を数個同定するには至ったが、未だ多くの有意なSpotについては同定に至っておらず、今後も研究を継続することにより明らかにしていく。
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