Otx3は中枢神経系および膵島に発現するホメオドメイン型の転写因子である。本研究では、Otx3の役割を明らかにする目的で生化学的特性とOtx3ノックアウトマウス(KOマウス)の解析を行った。(1)分子生化学的特性の解明:Ox3は標的2本鎖DNAの存在下で、Otx2と強固なヘテロダイマーを形成することが示された。またレポーターアッセイやpull downアッセイの結果、Otx2との結合が低下したOtx3の変異体ではOtx2に対する転写抑制機能が低下していることが判明した。E10.5マウス胎児のin situ hybridizationでOtx2とOtx3はいずれも発生中の神経上皮に発現しており、両者の相互作用を示唆する結果であった。(2)KOマウスの表現型解析:KOマウスは生存可能であり、脳の前後軸を決定するマーカー分子の発現パターンをはじめ、明らかな脳の形態異常は認められなかった。しかしKOマウスは短期の絶食により明らかな低血糖を示すことが明らかになった。経口糖負荷試験ではインスリン分泌反応が野生型に比較し有意に低下しておりOtx3の糖代謝機能制御への寄与が示唆された。さらに検討したところ、KOマウスでは全身の脂肪蓄積が減少し、インスリン感受性が亢進していた。Otx3が膵β細胞以外には脳にきわめて限局して発現していることを考慮すると、中枢神経系におけるOtx3の機能破綻が絶食時の血糖値維持の障害やインスリン感受性の亢進を引き起こしていると考えられた。以上のように、本研究によりホメオドメイン型転写因子Otx3の生化学的な特性に加え、Otx3の病態生理学的な役割が明らかになった。Otx3は肥満症や消耗性疾患などエネルギー代謝制御の異常による疾患群の新たな治療標的となる可能性も考えられた。
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