2型糖尿病と密接に関係するインスリン抵抗性、つまりインスリン刺激によるGLUT4(インスリン反応性グルコース輸送担体)の細胞内から細胞膜への移動の障害が如何にして生じるか、あるいはそれを如何にして治療したらよいかを調べるため、インスリン刺激によるGLUT4の細胞内局在コントロールの機序を、特にアクチン細胞骨格と関連させ調べている。我々が用いている3T3L1脂肪細胞においては、インスリン刺激はチロシンキチーゼcSrcを活性化し、さらにその下流にあるp120-カテニンのチロシンリン酸化をおこし、p120-カテニンと細胞間接着因子であるN-カドヘリンの結合を促進する。p120-カテニンはRho-GDIとして働くが、N-カドヘリンと結合することによりその働きが抑制され、結果としてRho family small GTPaseの一つであるRhoAが活性化される。さらにRhoAはPIP5Kを活性化することによりアクチンの重合を誘導し、細胞内のアクチン単体の数を減少させる。結果として、アクチン単体を用いた細胞膜上のGLUT4の再取り込みを抑制することとなり、これがインスリン刺激によるGLUT4 translocationの原因の一つと考えられた。また、N-カドヘリンからのβ-カテニンの遊離は、β-カテニン-アクチンを介する細胞-細胞間接着の支持を低下させることとなり、同時に細胞膜下アクチンファイバーの安定性の低下をもたらし、細胞膜上の分子の流動性を高める。インスリン刺激により細胞内GLUT4含有成分は管状構造となり、細胞膜上の数カ所に運ばれ、そこから細胞膜上を拡散していくが、細胞膜下アクチンファイバーの不安定なインスリン刺激状態では、細胞膜上をGLUT4が早く拡散していくと考えられた。以上の様な機序も介し、GLUT4のtranslocationが起こっているものと推察された。ただし、薬物により細胞膜下アクチンファイバーを完全に乖離させてしまうと、かえってGLUT4のtranslocationが抑制されてしまうので、アクチンの重合もGLUT4のtranslocationにとって重要な意味があるものと推測されるが、この点は今後の研究課題である。
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