3T3L1脂肪細胞において、インスリン刺激はチロシンキナーゼcSrcを活性化し、その標的タンパク質であるP120-カテニンのチロシンリン酸化をおこし、p120-カテニンと細胞間接着因子であるN-カドヘリンの結合を促進した。p120-カテニンはRho-GDIとして働くが、N-カドヘリンと結合することによりその働きが抑制され、結果としてRhoAが活性化される。また、p120-カテニンはVav-GEFなどを介しRacやCDC42を活性化しているが、インスリン刺激によりその作用は低下する。以上より、インスリンはp120-カテニンを介しRhoファミリー低分子量Gタンパク質のうち、RhoAを活性化し、RacやCDC42を不活性化する。そこで、3T3L1脂肪細胞に活性型RhoAと不活性型Racを発現したところ、インスリン非刺激状態におけるGLUT4の細胞膜へのtranslocationが促進された。3T3L1細胞は線維芽細胞から脂肪細胞に分化するが、その過程においてカドヘリンの量は極端に低下する。それによってカドヘリンと結合していない細胞内p120-カテニンが増加し、RhoA活性が低下する。これによりさらにアクチンストレスファイバーの低下がもたらされ、脂肪細胞独自の形態的あるいは機能的性質を持つ様になる可能性も考えられた。また、N-カドヘリンを過剰発現しても、インスリン非刺激状態におけるGLUT4の細胞膜へのtranslocationが促進されたことより、GLUT4が他のGLUTファミリーメンバーと違い、インスリン非刺激状態では細胞内に大部分が留まる機序として、p120-カテニンによるRhoAの不活性化が重要と考えられた。しかし、アクチン細胞骨格の役割も含め、GLUT4のtranslocationにおけるRhoファミリー低分子量Gタンパク質の働きの詳細には不明な点が多く、今後さらに研究していく必要があると考えられた。
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