糖尿病性腎症(腎症)患者数は透析療法導入原疾患の第1位を占め、導入後10年生存率も慢性糸球体腎炎の53%に比べ25%と極めて悪い。この現状を打破するためには、糖尿病性腎症の腎不全への進展を阻止する治療法の開発が急務である。研究代表者らは、糖尿病モデル動物から単離した腎糸球体や高ブドウ糖に曝した培養メサンギウム細胞におけるTGF-βの発現増強が細胞外基質産生に重要であることを見出した。そこで、抗TGF-β作用を発揮する薬剤あるいは分子が、糖尿病性腎症の抜本的治療となることに着目した。 本研究ではアンジオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin-converting enzyme inhibitor ; ACE-I)投与により血清中で増加するN-acetyl-seryl-aspartyl-lysyl-proline(Ac-SDKP)がレニン-アンジオテンシン系非依存性に腎保護作用を発揮することを仮説として、繊維性増殖疾患の中心的役割を演じるサイトカインであるTGF-β作用の細胞内情報伝達系に対するAc-SDKPの分子機構を解明した。 a.TGF-β刺激によるtype I collagen発現の増強を、Ac-SDKPが濃度依存性に抑制することをNorthern blot法にて確認した。 b.TGF-β刺激によるSmad結合部位を有するルシフェラーゼリポーター活性(4XSBE-Luc)及びAP-1結合部位を有するルシフェラーゼリポーター(3TP-Luc)活性の増強Ac-SDKPが抑制することを確認した。 c.TGF-β刺激によるSmad2のリン酸化、およびSmad2、3の核内移行を、Ac-SDKPが抑制することをWestern blot法にて確認した。 d.Smad7の細胞内局在に対する効果を免疫組織学的にconfocal microscopyにて検討し、Ac-SDKPによりSmad7が核内から細胞質分画への移行が時間依存性に見られた。 以上の結果により、Ac-SDKPによる抑制性Smad7の細胞局在の変異により、Ac-SDKPは抗TGF-β作用を発揮することが明らかとなった。
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