1.目的 クッシング病の原因となる下垂体ACTH産生腫瘍ではグルココルチコイド抵抗性が認められるが、その分子機序の詳細は明らかでない。近年ヒト下垂体腺腫組織中にステロイド代謝酵素の発現が報告されている。今回我々は、マウス下垂体ACTH産生腫瘍細胞株AtT20において、代表的なグルココルチコイド代謝酵素である11β-HSDの発現、及びその阻害がグルココルチコイド抵抗性に及ぼす影響を検討した。 2.方法 (1)11β-HSD1およびHSD2の発現をRT-PCR法により解析した。(2)同酵素阻害剤carbenoxolone (CBX)の前処置がグルココルチコイド抑制性に与える影響を、POMC遺伝子の転写活性を指標として検討した。(3)高濃度グルココルチコイドの細胞のviabilityに及ぼす効果を、CBX存在下および非存在下で検討した。 3.結果 (1)AtT20細胞において11β-HSD1および11β-HSD2 mRNAの発現を認めた。(2)CBX非存在下では、コルチゾールは10nM以上でPOMCの転写を有意に抑制した。一方CBX(5μM)の存在下ではコルチゾールは1/10の濃度で有意の抑制効果を示し、また抑制の程度も顕著であった。(3)高濃度コルチゾール(100nM)存在下でAtT20細胞は通常に増殖を継続したが、11β-HSDをCBXで阻害した条件下では、大部分の細胞が7日以内にアポトーシスで死滅した。 4.結論 ACTH産生下垂体腺腫では11β-HSDの発現がグルココルチコイド抵抗性と関連している可能性が示唆された。またその阻害がcell viabilityを著明に低下させたことから、11β-HSD阻害剤がクッシング病の内科的治療法として有用である可能性が示唆された。現在マウスを用いたin vivoの検討を行っている。
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