クッシング病の原因となる下垂体ACTH産生腺腫細胞では、高コルチゾール血症の存在下にもかかわらずACTHの合成ならびに分泌が持続し、グルココルチコイド抑制に対する抵抗性を示すことを臨床的特徴とする。しかしながら、その分子機序の詳細は明らかにされていない。我々は本腺腫細胞においてステロイド代謝酵素11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2 (11β-HSD2)の異所性発現が関与する可能性を考え、マウスACTH産生下垂体腺腫細胞AtT20を用いたin vitroの系により各種検討を行った。その結果、まずRT-PCR解析において本細胞における11β-HSD2の発現を確認した。また11β-HSDの阻害剤であるcarbenoxolone(CBX)の存在下では、グルココルチコイド抑制に対する抵抗性が有意に減弱することを見出した。さらに興味深いことに、CBX処置下で高濃度のコルチゾールとともに細胞培養を約一週間継続すると、大多数の細胞においてアポトーシスが招来されることを明らかにした。以上の結果より、ACTH産生下垂体腺腫細胞では、11β-HSD2の発現により、細胞内におけるコルチゾールからコルチゾンへの不活化が亢進し、その結果グルココルチコイド抑制に対する抵抗性が生じている可能性が強く示唆された。実際、ヒトACTH産生下垂体腺腫でも11β-HSD2の異所性発現が報告されていることを考慮すると、11β-HSD2を分子標的とした薬物の使用により、腺腫細胞をアポトーシスに陥れることで腫瘍縮小効果を誘導しうる可能が示唆された。今後、11β-HSD2により特異的な選択制を有する阻害剤の開発が強く期待される。
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