私共はこれまで多発性内分泌腫瘍症I型の原因MEN-I遺伝子産物Meninが骨芽細胞の初期分化に必要で、後期分化に関してはむしろ抑制することを明らかにしてきた。さらにTGF-beta特異的なシグナル分子のSmad3が骨芽細胞において骨形成に重要な分子であることを提唱してきた。また副甲状腺ホルモン(PTH)は最も骨形成促進の強い薬剤であるが、その作用機序は未だ不明である。今回私共は骨芽細胞におけるPTHのSmad3に及ぼす影響及びその生理的意義について検討し、PTHの骨芽細胞アポトーシス抑制作用にSmad3が関与することを示した。さらに骨芽細胞株で糖質コレチコイドのデキサメサゾンがSmad3による転写活性やアルカリフォスファターゼ活性促進を阻害し、Smad3には影響を及ぼさないことを証明し、ステロイド骨粗鬆症の骨形成抑制の機序の一つとして提唱した。一方、これまでMeninとBone morphogenetic proteinのシグナルが骨芽細胞への初期分化に関連することを検討してきたが、今回細胞株を用いて間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化段階においてMeninはSmad1やSmad5、さらにはその下流で骨芽細胞分化に必須の転写因子であるRunx2と機能的にも物理的にも相互作用をしていることを示した。さらにこの相互作用は骨芽細胞に分化してしまうと減弱し、その機序として一部MeninとSmad3の相互作用が抑制的な作用を及ぼしていることが示唆された。また分化した骨芽細胞においては骨芽細胞の機能に重要なAP-1因子の一つJunDが分化、石灰化を促進する作用を有し、MeninはJunDと結合することによりJunDの発現、転写活性及び骨形成作用を阻害することにより骨芽細胞の分化を抑制することを明らかにした。
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