研究概要 |
遺伝性侏儒症ラット(dr)は本邦で発見されたGH単独完全欠損症のモデル動物で,天然に存在するGH・IGF-1のK/Oラットである.本研究者はdrの遺伝子異常を同定し,下垂体特異的にヒトGH遺伝子を発現させ,drでのヒトGHの脈動的分泌と成長の完全回復を報告した.本研究では,脂肪細胞・軟骨細胞の発生・分化と機能にあたえるGHの組織特異的影響を明らかにするため,drに着目し,ヒトGH遺伝子を脂肪細胞や軟骨細胞などに特異的に発現させ,その生物作用を検討した.ヒトLeptin遺伝子上流域-2.4kbpとヒトGH遺伝子2.1kbpのキメラ遺伝子(Lep-hGH)の調製した.dr未受精卵子に直接,Lep-hGHキメラ遺伝子(4.5kbp)とdr凍結精子混合液を顯微注入しLep-hGH-dr生体個体を作出した.hGH遺伝子は脂肪組織とそれ以外は精巣・卵巣に強発現した.胃体部,副腎,腎臓などには少量のhGHが発現していた.血中にhGH蛋白が検出された(hGH:8.1-949.1pg/ml).これらTgラットは対照のdrと比較し,体重は生後2ヶ月で1.3~1.5倍,体脂肪は140-150%の増加を示した. 一方,Tg飼育室全体がマイコプラズマ(M.pulmonis)によって感染されたため,本lep-hTg-drは全頭屠殺処分され,その後の解析ならびにα1c-hGH-drの作出はやむを得ず中断した.従って,今回の成績からは1)ヒトLeptin遺伝子転写開始点より-2.4kbp上流域promoterを用いると,ほぼ脂肪細胞に特異的なヒトGH遺伝子を発現させうること,2)予想に反して,Lep-hGH-drは肥満を示すことが明らかとなった.今回の肥満はヒトGH遺伝子発現量が十分でないためなのか,流血中の微量のhGHが体脂肪増加に作用したのかは今後の検討課題である.
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